レジリエンスを高めるために

新型コロナウィルスが各地で猛威をふるい続け、様々な制約や変化が強いられる中、働く人のメンタルヘルスはますます重要な課題となってきていると言えます。そしてこのような状況において、難しい状況でも柔軟に適応したり回復できる力、レジリエンスは一層求められる力になってきているのではないでしょうか。

今回はそのレジリエンスを高めていくにあたり、脳科学、心理学を基盤とした3つのポイントを、米国シックスセカンズ本部の記事に基づいてご紹介したいと思います。

1.レジリエンスの高い脳の特徴 ― 感情にラベリングしよう

ハーバード大の研究によると、レジリエンスの高い人の脳は組成が異なっているそうです。

まず、レジリエンスの高い人の脳は、感情的な反応や気分のコントロール、意味づけなどに関与している領域である左前頭前野の活動が活発なのだそうです。レジリエンス研究で知られるR.デーヴィッドソン博士によるとレジリエンスの高い人は低い人に比べて30倍も活動量が高いと言います。

また、左前頭前野と扁桃体(闘うか、逃げるか、固まるか(Fight-Flight-Freeze)の反応を引き起こす脳の脅威検出センター)との間の結合レベルにもレジリエンスの高さに関係があることがわかっています。前頭前野と扁桃体のつながりが強固なほど、レジリエンスが高いというわけです。

この二つの部位の関係性で思い出されるのは、EQでは感情にラベリングすると感情が鎮静化する(例えば怒っているときに「私は怒っている」と一度ラベリングすると怒りが少しおさまる)ということをよく言いますが、これも実は同じことで、感情にラベリングすると左前頭前野が活性化し、扁桃体が落ち着くためなのです。

感情にラベリングして扁桃体を落ち着かせれば、冷静に前に進むための選択肢が見えやすくなる、つまり難しい局面でも冷静に対応していきやすくなる、ということで、感情にラベリングすることはレジリエンスにおいて大切な第一歩と言えそうです。

2.レジリエンスが高い人が自分をどうとらえているか ― 自分は学んでいるのだと考えよう

E・ワーナーという心理学者がハワイの698人の子どもたちを対象に、レジリエンスの違いをうむ要素を調査しました。その結果、社会的なものも含めて様々な要因がある中、心理学的な要素で影響の大きいものの一つに「内的統制(locus of contro)」と呼ばれるものがあったそうです。これは、自分の人生を決めるのは外的な要因ではなく、自分自身であると考えられるタイプであるかどうか、ということで、レジリエンスの高い子どもたちはこのスコアが明らかに高かったのです。

自分が物事をコントロールできているという感覚と、逆境に対する反応については、マーティン・セリグマン博士の学習性無気力の研究が有名です。何をしてもショックを与えられると思い込んだ犬と、状況をコントロールできる犬では、前者が諦めてしまうのに対し、後者は適応する方法を習得しました。人間においても同じことが言え、自分はコントロールできる、自分の行動が変化をもたらす、と認識できるかどうかが大きな違いとなるのです。

つまり、レジリエンスには、誰もが学ぶことのできるスキルである”楽観性”が大きく関与していることになります。

3.レジリエンスの高い人は逆境をどう解釈するか ― 楽観性を発揮していく

学習性無気力の研究を継続していく中で、逆境への反応の違いは、逆境をどうとらえるかによって大きく異なることがわかりました。下の図に見るように、悲観的な人と楽観的な人では逆境の捉え方が大きく異なっています。

マーティン・セリグマン博士の3Psモデル

悲観的なものの見方をする人は、学習性無気力や鬱状態に陥りやすい傾向があります。しかしマーティン・セリグマン博士は、この解釈スタイルは学習することができることを発見しました。そして悲観的から楽観的な解釈スタイルに変えることで、レジリエンスが高まり、鬱にもなりにくいこともわかったのです。


「感情にラベリングすると、より冷静な判断・対応がしやすくなる」
「楽観的なものの見方が困難を乗り越えるのにカギになる」
「楽観性は後天的なもので、学習することが可能」

記事からはこうしたことが要点として浮かび上がってきました。

今、とても大変な状況で先が見えない、という状況にいると、感情を認めることは怖い部分ももしかしたらあるかもしれません。でも感情を無視することは長期的にはその感情を強めてしまうこともわかっています。

感情をしっかり見据えながら、思考とうまくバランスをとって行動に反映させていく―――そうしたEQ力は今のような難しい世の中で、欠かせない力と言えそうです。